人がそう簡単に理念に沿って生きられない理由/ビジョン・承認欲求
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警鐘を鳴らすも届かない
世の中にある不祥事、利己主義、商業主義、権威主義、それら全ての裏に「ビジョン意識の欠落」があることは、今や小学生でも理解しています。
多くの人は、
- 今こそビジョンに立ち返るべきだ
- 厳しく自戒し、理念を新たにすべきだ
- 徹底した体質改善を急ぐべきだ
と警鐘を鳴らし続けています。
しかし、ビジョンから外れ、そこに疑問を抱かず、自己を省みることもなく、突っ走り続ける組織・人は健在で、社会を引っ張っています。
理由はシンプルです。
- ビジョンから外れているから人は判断を誤る
- 利己主義で動けば発展は持続しない
- ビジョンとは他者貢献意識によって抱くもの
これらは、物事を本質的に捉えているから、分かるものです。渦中の組織・人は、本質とは離れているから、原因が分からないのです。
ピンと来ない
では、渦中の人たちに本質を説明し、体質改善を促せば良いのでしょうか。往々にして頭脳明晰な彼らが、説明自体を理解しないことはありません。しかし、一言で言えば、彼らの中で「ピンと来ない」まま時は過ぎます。
彼らは決まってこう言うでしょう。
「言ってることは分かるんだが、現実はそうもいかないでしょう」
「いやいや、別に利己主義ではありませんよ。これが私なりに皆を思ってのことですよ」
これ以上、話は進められないものです。平行線はどこまでも続くからです。そして、過去「精神論」と片付けられてきた部分です。しかし、ここに手をつけなければ、利己主義な経営・国家運営はどこまでも続きます。その裏で犠牲になるのは、罪のない市民、可能性に溢れる若者、知恵に劣る立場の人々です。
理念から外れ利己主義に物事を進めることは、持続可能な発展とは掛け離れているので、経営・国家運営・あらゆる活動に関わる優秀な人材は、精神論を方法論だと捉え、学んでいるのです。
批判という力尽くは逆効果も
平行線が続く利己主義な人を前に大切なことは、力尽くで分からせようとしないことです。力尽くとは、たとえば、批判です。
「彼らのやり方は本質から外れ、理念を見失い、間違っている。早急に体質改善すべきだ」と批判めいた指摘をしても、事態が前進することはないでしょう。
彼らが素直に、「あ、そうか!よし、自分を変えよう!」とはなりません。「何言ってるんだ、こっちの苦労も知らないくせに、偉そうに言うな」とブツブツ言って終わりです。
いえ、正確には、「ブツブツ言って終わり」ではなく、「心を頑なにして終わり」です。つまり、批判はプラスを生まないどころか、事態を悪化させることがあるということです。
批判をすることで、問題をあぶり出すことが出来ます。しかし、問題をあぶり出す目的は、より良い社会作りです。より良い社会作りには、彼らの前向きな意識や能力も必要でしょう。とすれば、彼らの心を頑なにする批判や、批判めいた指摘は、必ずしも効果的とは言えないかもしれません。
彼らの内面的な仕組みを理解する心
では、どうすれば良いのでしょうか。それはまず、本質や真の理想が見えている人たちが、彼らの仕組みを理解することが必要だと思います。
- なぜ利己主義に生き、本質から外れているのか
- なぜ折角の能力・資源を、世の中の持続可能な発展のために使わないのか
- なぜもっと自分の言動を謙虚に振り返り、改善へ繋げないのか
この時の「なぜ」が、批判めいていることを自覚するならば、その批判の心が、事態を停滞させているかもしれないと、自分を疑ってみることも一つの手です。
「なぜだろう」と純粋に、彼らの胸の内を理解しようとする寄り添いがあるならば、その心が、事態を解決へと導くかもしれません。
誤解しないでください。彼らが利己主義であることを、周りの人のせいにしているのではありません。彼らが利己主義であることに気づく余地を残すために、周りの人は立ち回ってはどうでしょうかと言っているのです。
辻褄が合わない
組織や社会を動かし、決断している立場にある彼らは、ビジョン意識に乏しく、本質から外れた言動を取っているかもしれませんが、頭は良いに違いありません。
「この判断は利己主義か?利他主義か?」
「この方針は、持続可能な社会の発展にとってプラスか?マイナスか?」
こんな簡単なことに、彼らが答えを出せない訳がありません。
ですから、周りの人は、
「何を言っているんだ!どう考えてもおかしいでしょう!」と批判し、
「自分を守るために、まだとぼける気なのか!」と不満を募らせ、
「利己主義に走りすぎて心を失ったのか・・・」と最後は絶望するのです。
しかし、よく考えてみませんか。
頭の良い彼らが、なぜ良質なビジョンに沿って生きられないのか。
なぜ、批判をされ、生き辛くなる事態に、自分を追い込むのか。
なぜ「世の中や自分にとって真に大切なもの」部分だけ、無知になるのか。
金や権力に目が眩んだとしても、本質から外れている事態には、なぜ突然無理解になるのか。
辻褄が合いません。
人から利己主義と批判されようと、効果に持続性が期待できないと分かっていようと、彼らには、そうせざるを得ない理由があるのです。
ビジョンが見えない人がいる
ビジョンや本質を捉え動くことの重要性を説明されても、彼らは「ピンと来ない」。これが答えです。周りの人から、当たり前のように説明されても、言葉は理解できますが、意味が理解できないのです。
ツバの大きな帽子を目深に被っているような状態の彼らに、「あの雲、ほら、白いでしょ!」と言っても、彼らには、そんな上、どうやっても見えないのです。
一体どういうことでしょう。
ビジョンも理念も承認欲求が満たされた後の話
- 自分の能力を活かしたい
- 人々や世の中のためになることをしたい
人が、このように思うのは、人間の本能である「自己実現欲求」によるものです。 社会心理学者マズローが唱えた「欲求5段階説」の中の、最も高次の欲求です。
欲求は、いきなり高次を満たすことは難しく、低次から順番に満たしていき、高次へ向かいます。
ですから、たとえば、
- 空腹と喉の渇きでグッタリしている人が、「社会的欲求」を叶えようと、人との繋がりを求めることはありません。水を飲み、「生理的欲求」を満たすことが優先です。
- 凍える寒さの中に居て体の感覚が無くなってきた人が、「承認欲求」を叶えようと、仕事の成果を認めてもらうために動くことはありません。寒さから逃れ、「安全欲求」を満たすことが優先です。
つまり、人が「自己実現欲求」によって活動することを願うならば、その一つ下の欲求「承認欲求」をしっかりと満たす必要があるということです。
本質を説明されても彼らがピンと来ないのは、喉が渇いて頭が朦朧として辛いのに、「世の中の発展を願い生きましょう!」と、次元が違いすぎる期待をされているような状態だからです。
彼らはただ、水が必要なのです。”世の中の発展”など、「一体どこからそんな話が湧いてくるんだ??」です。
人間の欲求に「飛び級」はありません。
今までは、うまく欲求の飛び級をしてきたかのような人が多くいるのかもしれませんが、それでは成果の持続性・安定性は期待できません。ですから今、ビジョン意識が欠落した人たちの在り方に、多くの人が疑問を感じているのです。
承認欲求が満たされていない状態
承認欲求が満たされていない状態は、心に穴が空いている状態です。私を受入れて、認めて、大切にして、可能性を信じて、などという願望が叶っていない状態です。
頭をどう整理しようと、人間の本能は、自己実現欲求よりも先に、承認欲求を満たしたいと思っています。
ですから、表向きは「○○に貢献するために」働いていても、実際は「認められるため」「自己防衛・自己証明」のために動いていて、思うように成果が出せていない状態に留まっています。
権力者に付き働きながら、いつか自らも権力を得るためにと、そもそもそれをを得て達成したいと抱いたビジョンに反する方へと進んでいます。
「穴埋めを優先すべき」と本能が働いているからです。
ビジョンに反していようと、批判されようと、たとえ頭でそれを理解していようと、先に心を埋めなければ落ち着いて生きられないので、ビジョン意識で働くことや他者への貢献度を高めるなど、後回しです。
認められ、権力を得て、自分が凄いということを自分自身に証明する必要があります。本人がそうしたいと思っているのではなく、本人すら気づいていない本能が望んでいるのです。
もちろん、承認欲求がどうあれ、どのような仕事も世の中のためになっています。しかし、仕事内容や置かれた立場によっては、承認欲求の放置が最後に足を引っ張る存在になるようです。
承認欲求が満たされている状態
一方、承認欲求が満たされている状態を見てみましょう。心に穴はありません。
長所短所含め、ありのままの自分を受入れ、認め、大切にし、感謝し、評価し、そして、自分の可能性を信じている状態です。
この状態の人は、自然と意識は「自己実現欲求」へ向かい、
- 自分の能力を更に高めるためには
- 自分や仲間の能力をどのように活かそうか
- 自分にはどのような貢献ができるか
- どのような社会を作っていきたいか
などということを、心から考え始めます。
これが、ビジョンからブレず生きている人の仕組みであり、私たちが社会を動かす人たちに求めている状態です。
この記事は、精神論を語っているのではなく、持続可能な成果を出すための方法をお伝えしています。
周りの人にできること
人が自分の承認欲求を満たし、持てる力の全てを自己実現・社会貢献へ使うためには、自分に向き合うしかありません。承認欲求は、他者による承認をかき集めれば満たされるのではありません。自分の中から生まれる「自覚」で、自身を満たし、自己肯定感を高めるしかないからです。
自分でどうにかするしかないのならば、周りの人にできることはないのではないか?と思われるでしょう。
しかし、彼らが、折角の能力・資源を適切に活かし、より良い社会作りへ繋げるために、周りの人にできることは3つあります。
- 本人の良い所や実績に目をやり、伝え、認める
- 本人の課題や欠点より、良い所へ意識を向け切る!!
- 自分自身が自己承認を完了し成長サイクルにある
1.本人の良い所や実績に目をやり、伝え、認める
自己承認不足の人、自己肯定感が低い人は、自分の良い所を見つけることが苦手ですし、どれ程自分が努力や実績を積み重ねても「足りない」と感じています。周りの人が、彼らの良い所や実績への感謝を、可能な限り伝えてみましょう。批判とは真逆です。
彼らの過去の功績に敬意を払い、その力を更に社会のために活かして欲しいと願いましょう。
伝え方を工夫する
- 「あなたは凄い」ではなく、「あなたの努力によってこれほどの人々が助かった」と言いましょう。そして、世の中が認めるものは「自分の凄さ」ではなく、「人への貢献部分」と刷り込みましょう。
- 「あなたには力があって凄い」ではなく、「あなたには人への寄り添いがあるから、ここまで出来るのでしょう」と言いましょう。そして、世の中が評価するものは「人への寄り添いから生まれる行動」と刷り込みましょう。
大切なことは、彼らが積み重ねた過去を充分に周りが認め、彼らの視点が自然と先へ向かうよう願うことです。
- 相手の良い所に目を向ける
- 相手も成長過程にいると理解する
- 課題や欠点は「現時点での」と捉える
- 相手の言動に疑問を感じたら、その思いを知る
- 相手の中に潜む可能性を信じる
- 相手を大切に思う
「批判を強めないと伝わらないんだよ」
「そんな悠長なこと言っていたってダメだ」と思うならば、批判を続けるしかありません。それが、あなたの正義感と能力をより良い社会作りのために活かす最善の方法ならば、良いと思います。
または、彼らとは関係のない所で、あなた自身がより良い社会を具体的に築き上げていくこともできます。しかし、恐らく、ビジョン意識に欠ける人は環境を変えても現れるでしょう。
力で人を動かす時代は、終わりです。
- 批判を繰返す識者
- 攻撃的な物言いで自分の権威性を高めようとする権力者
- 優位性を誇示し求心力を得ようとするリーダー
- 脅しを用い選択肢を狭めることで人を動かそうとする教育者
このような、これまで頼られてきた人たちの在り方に、違和感を感じている若者が多くいることは、あまり知られていないのでしょうか。
- 子供や親たちがお笑い芸人のぺこぱを好むのは、他者受容を踏まえて話を進めるネタだからです
- 若者が、「ちゃんとやらないと将来困るぞ」という大人の言葉に愛情を感じつつもどこか寂しさを抱くのは、可能性を信じてもらうではなく、脅しを用いた誘導をされているからです
- 実績をアピールする上司から社員の心が離れるのは、優位性を保とうとする姿勢に不安定さを感じ取るからです
他者批判や力の誇示で世の中を動かすことはできますが、その方法に持続性を期待できないと感じるタイプの人が増えています。
力を用いることなく成果を出す環境や関係を作る能力、これが、環境問わず成果を出す人の常識です。成果を安定的に出したい人たちの中に、「批判によって他者に何かを気づかせる」という選択肢はないようです。目先の効果しか生まないのに、最も大切なものを手放す方法だからです。
2.本人の良い所へ意識を向け切る!!
人は、自分の課題や欠点、方向性の修正は、周りの人から指摘されるより、本人が自ら気づき、前進しようと思えることが最も効率的な事態改善へ繋がります。
「あなたは○○が本当に得意ですね。あとは、✖✖ができれば言うことないですね。」など、後半の余計な言葉は飲み込みましょう。
このような言葉が応援・指導と捉えているのかもしれませんが、本人の自発的な課題発見と解決の機会と経験を奪っています。
目の前の人は、あなたが思っている以上に、能力高く、成長したいと望んでいます。本人の可能性を信じましょう。
信じられず、ついポロッと注意や指摘が出てきてしまうのであれば、あなた自身が自己承認不足で、自分の可能性を信じ切れていないのかもしれません。人の可能性を信じ、待てる人は、自分を承認しきっている人です。
「そんなもの、自己管理するものだよ」
「権力や決定権をもち、自分より経験豊富な人たちの心の面倒まで見ていられないし、いい大人なんだから自己管理するものだ」という意見もあるでしょう。
しかし、本質や世の中にとっての本当の理想がしっかりと見えている人は、同時に、理想にとって何が必要か?というビジョンからの逆算視点で動く能力がある人です。相手の経験や立場に惑わされるのではなく、自分のエゴに基づいて動くのではなく。
3.周りの人自身が自己承認を完了し成長サイクルにある
関わる人の自己承認を助けるには、以下が大切です。
- 周りの人自身が自己承認し、自己肯定感を高める
- 周りの人自身が成長サイクルにある
言葉多くサポートし、声掛けすることではなく、自己承認を完了した経験をもち、自己肯定感が高く、成長サイクルにある人との関わりが何よりのサポートなのは、言うまでもありません。
さいごに
以上を、人が理想に沿って生きられない理由と対処法としてお伝えしました。
「結局、彼らが変わるのを待つしかないんじゃ、ダメだ」
「スピードも必要なんだから、ある程度の力は当然だ」
このように感じている多くの人たちのご尽力によって、この社会は築かれ、そこに私たちは生きています。その方たちの苦労や葛藤の全てを、人が理解することはできません。
一方で、中には、以下のように仰る方もいます。
「彼らが自発的に理念に沿って動く方がいいとは思っていた」
「子育てや部下との関わりと、全く同じだ」
「自分たちの中に、彼らの働きに対する感謝が欠けていたかもしれない」
「批判以外の方法が、結局は残るのだろう」
「他者受容をベースとした社会作りをしていく番なのだろう」
このような方たちによって、既により良い社会が作られていると感じます。
そして、その方たちが疲れ立ち止まった時、多くの苦労を知る経験豊富な前述の方たちが、その偉大な力でサポートをしてくれるかもしれません。
そうして、より良い社会が作られると良いなと思います。
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