利他を探る科学にもビジョンの質が関わる/東工大未来の人類研究センター

持続可能な発展を支える人材に欠かせないビジョンを「正しく」設定することの大切さは、科学技術を支える研究者にとっても同じようです。そしてもう一つ、若者が利他を感じにくい社会環境があるようです。

利他を研究する東京工業大学

東京工業大学・未来の人類研究センター長の伊藤亜紗氏のインタビュー記事に、以下のようなお言葉がありました。

「利他という言葉を聞くと他者のために何かをすることとしての『善行』を思い浮かべるでしょう。科学技術は人類の幸せのためという善意にもとづいて開発されています。でも、『他者のため』にと思うことが、結果的に相手をコントロールすることにつながったり、出会いの可能性をせばめたりすることもある。重要なのは、能動的な行為としての利他ではなく、他者の潜在的な可能性をひきだすような偶然に開かれた利他だと考えています」

 

まさに、

  1. 「利他」とは「他者の幸せを願うビジョン」
  2. 「他者のためにと思い動くことが良からぬ結果を招くことがある」とは「自分主語に留まるビジョン」
  3. 「重要なのは、能動的な行為としての利他ではなく、他者の可能性を引き出すような偶然に開かれた利他」とは、「他者主語で描く理想のビジョンに、自分の働きが”繋がっている”と捉えること」

 

1.利他=他者の幸せを願うビジョン

利他とは、他者のことを思うことであり、自分の目標や願望を叶えることに留まりビジョン(=理想の状態)を設定するのではなく、他者の幸せを含めて自分のビジョンとするということです。

これは、「ビジョンの2つの種類」の、「自分のこと」「他人のこと」で言うところの、「他人のこと」=利他もビジョンに含めることが大切ということです。

 

ここで向かうのが「人のために○○をする」「人の○○をサポートする」「社会にとって○○という会社になる」などという他者貢献視点で設定されたビジョンです。

いつもお伝えしていますが、ここに落とし穴があります。

 

2.他者のためと思い動くこと=貢献の押しつけも

「人の○○をサポートする」とは、一見素晴らしいビジョンです。他者の幸せを願っています。しかし、これは「自分がどうする・こうする」という自分主語から視点が上がっていません。

これが、伊藤亜紗氏が仰る「『他者のため』にと思うことが、結果的に相手をコントロールすることにつながったりする」という部分かと思います。

自分主語のビジョンを抱く段階では、貢献の押しつけ、自分目線での貢献になりがちです。

 

3.偶然に開かれた利他=”繋がっている”という意識

良質なビジョンは、他者視点で語られるビジョンです。

たとえば、

  • 温暖化で住む地が消え行く人々の不安が晴れ、将来に希望を抱き生きられるようになっているビジョン(=情景)
  • ✖✖を抱え苦しみ生きる子供たちが、自分の未来にワクワクしながら安心して勉強できるようになっているビジョン
  • 全ての人がありのままの自分を認め、認め合いながら、自分らしく生きられる社会

 

このように、主語は他者です。「自分がサポートする」「自社が○○に貢献する存在になる」などという自分主語ではありません。

全ての人や会社のビジョンが他者視点ではないかも知れませんが、それでも問題はないと思います。人や会社が精一杯考え抜いて設定したビジョンは全てが正解です。

 

現代は利他が生まれにくい社会

伊藤氏の記事の中で、若者が利他を感じにくい環境についても以下のように触れられています。

「アンケートで『他者の好意を素直に受け止められなかった経験はありますか』と問いかけたとき、多くの若者が『経験がある』と答えました。理由は、男性は『自分はそんなことをしてもらう価値はない』という自己肯定感が低かったこと。女性は『お返ししなければいけないから』と、人間関係を交換の原理で捉えていたことです」

「若者は思いを伝えることも、受け取ることも難しくなっているのではないでしょうか。現代は利他が生まれにくい社会のように思えます。現代社会のさまざまな緊張感の中で、他者との関係性を築く経験が少なくなっているのではないでしょうか」

 

人との関わりが少なくなった現代の中、私が接する若者も、他者への関心が薄く、人の話にも興味を持てないなどという方がいました。しかし、それが若者たちの最終形ではないということは断言できます。

「ビジョンの共有」という場を設けることは、たとえば以下のような、大人が期待する以上の効果を生みます。

  • 自己肯定感・自己効力感という自覚を貯めている
  • 社会参画への当事者意識
  • 他者との距離を縮めるキッカケ
  • 自分の価値や可能性に気づく
  • 人に考えを伝える表現力
  • 人が考えを話しやすい環境を築く協調性

 

自分のビジョンを人に聞いてもらい、反応を得られることや、他者のビジョンを聞くことから得られる効果は大きいです。

  

ビジョンの種類・質・叶え方

以上については、以下記事にてまとめています。

 

 

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