異文化教育ロールプレイに欠かせない5つのポイント
異文化教育ロールプレイに欠かせない5つのポイント
異文化教育でのロールプレイとは、英語を使ったコミュニケーションの練習?英語に慣れること?外国人のコミュニケーションを体験すること?
その通りですが、それらの練習が何のために行われ、受講者にどのような行動変容を促したいのか、そして、そのためには、どのようなロールプレイマネジメントが最も効果的なのか、ここを深く設定せず、”コミュニケーション練習” に終わるロールプレイが一般的に多いように感じています。
異文化教育に効果的なロールプレイとはどのようなものでしょうか。
異文化教育ロールプレイの効果
実は、異文化教育だけではなく、講義の学びをロールプレイによって行動や意識に落とし込む効果が非常に高いのが、グローバル教育の特徴です。
異文化を背景に持つ人とのコミュニケーションは、頭で想定している通りには進まないからです。状況も、自分のスキル活用も。
ですから、グローバル組織創り教育でも、多国籍従業員指導者教育でも、ロールプレイを行います。
そして、教育は、現場で成果を出せる人材を育てるために行うものです。
ですから、研修での学びを「現場で活かす」のではありません。
「研修での学びを現場で活かす準備をする」までが研修です。
陥りがちなパターン
たとえば、新しい外国籍従業員の入社を待ち受ける日本人リーダーが、研修で一日を掛けて、外国籍従業員とのコミュニケーションの取り方を学び、最低限必要な語学の練習も行いました。
しかし、実際に入社した外国籍従業員と接して日本人が感じたこととしては・・・
- 研修のロールプレイで設定されていたような要求はしてこない
- 代わりに、言葉に詰まってしまう要求や質問をされた
- ”こうすれば理解できるだろう”の想定が違っていた
- ”こう言えばこう受け取るだろう”の想定が違っていた
- 彼らの質問に答えようにも、そもそも自分が考えたことすらない事柄が多かった
- 準備していた語学力ではなく、もっと実践的なコミュニケーションが必要だった
- 異文化理解は、知識としての理解が、態度での理解の表現に結びついていないと自覚した
- 業務上のコミュニケーションだけでは不足していると痛感したが、気づいたときには距離を感じる関係性が出来上がってしまっていた
- 上司として信頼を得たいが、日本人とのようにスムーズに進まない
以上のような現実は、教育前に想定できたことが多いですのですが、多くの日本人従業員は研修後、現実とのギャップを感じます。
それは、研修がカバーする範囲の設定に理由があるからかもしれません。
結局受講者は、研修で学んだことを現場で自分なりに咀嚼し、現場で活かすしかありません。
それが正解なのですが、上記に挙げたような想定内の混乱を研修内で知ることは、現場へ戻った受講者に余裕を持たせます。
その余裕があったとしても、実際の外国籍従業員とのコミュニケーションでは想定外が起こるものです。
せめて想定内の現実に対する準備はしても良いかもしれません。
それでは、異文化教育のロールプレイのポイントです。
異文化教育ロールプレイ 5つのポイント
- 「真の異文化教育」ポイント1~5のマインドを踏まえていること
- ゴールと状況設定をする視点
- ”相手役”を受講者に任せすぎない
- 受講者の中に葛藤を生む
- 受講者の葛藤を正しく行動目標へ繋げる
各ポイント1~5の説明をします。
1.「真の異文化教育」のポイントを踏まえていること
真に効果を生む異文化教育については、「真の異文化教育」の記事でご紹介した通り、以下のポイントを踏まえていることです。
◆「異文化教育」における大切な6つのポイント
- 自分軸があることが前提(主体性)
- 異文化理解の目的(ビジョン)
- 人やチームが育つ環境の理解(協調性)
- 自文化を理解し、誇りを持って語れること(自文化理解)
- 異文化の範囲(多様性)
- 異文化情報の理解(異文化理解)
【真の異文化理解教育】企業研修担当者が踏まえるべき6つのポイント
たとえば、日本人従業員にとっての、
- 外国籍従業員から、自分が考えたこともないことを質問された
- 信頼関係の構築に難しさを感じる
- 指導に説得力を持たせられない
- 理解される説明や説得ができない
などという悩みは、異文化理解の基礎であるマインドが備わっていないからでしょう。
原因をコミュニケーションスキルの不足として片付けていると、その日本人は、指導対象が外国人であろうと日本人であろうと、持続可能な成果を出すことはできないでしょう。
グローバル教育には、マインド基盤が非常に重要です。
「マインドはいいから、とりあえず即効性のあるスキルだけ学びたい」という受講者の要求に応える教育は、職場の目先の課題を対処療法的に解決することを可能にするでしょう。
一方、持続可能な発展を目指すような会社の教育が、マインド基盤形成を従業員教育から外すことはありません。
2.ゴールと状況設定をする視点
◆ゴール設定
ロールプレイのゴールをどのように設定するのかは大切なポイントです。
最低限、以下2点は設定した方が良いと思います。
- 異文化コミュニケーションを取るのは何のためか(目的、ビジョン)
- そのために、コミュニケーションがどのような効果を生むことを目指すのか(目標)
その上で、受講者がロールプレイに「お手本」「正解」を見出させないことが大切です。
人が変われば、コミュニケーションも変わります。
受講者が、研修講師や先輩のコミュニケーションを見て、それを正解だと早合点し、答えを得て安心した気になるのは避けましょう。
正解は各自が持っており、各自が自分自身の普段のコミュニケーションを活かす・応用する、その多様なコミュニケーションが、多様性を強みとして活用する組織を創るという前提を共有します。
◆状況設定
状況設定に必要な情報は、教育企画者が充分持っていなければいけません。
異文化コミュニケーションが行われる状況・人・背景はもちろんのこと、課題認識、理想のゴールイメージも合わせて、教育企画者にしっかり伝えましょう。
3.”相手役”を受講者に任せすぎない
ロールプレイには、必ず当事者役と相手役がいます。例えば、当事者役が日本人従業員、相手役が新入の外国籍従業員など。
ロールプレイを経験することで気づきを得られるのは、当事者役だけではなく、相手役も同じです。
自分が普段経験しない立場の外国籍従業員役を日本人従業員受講者が行うためには、外国籍従業員の立場や抱える事情を想像しなければいけません。
それは相手役をする受講者にとっては、良い経験になるので、相手役も受講者が行うのは良いでしょう。
しかし、ロールプレイは、受講者が想定している以上の設定でコミュニケーションの模擬経験をさせたくて取り入れるのではないでしょうか。
その場合、受講者同士のロールプレイでは限界が出てくるので、講師がロールプレイに入ることが非常に重要で、ロールプレイ効果を左右します。
異文化教育を行う講師は、日本人が陥りがちなコミュニケーションの特徴を理解しながら、様々な異文化言動・発想・語学の扱い方などを、受講者状況に合わせて使い分けます。
例えば、実際のグローバル組織における異文化コミュニケーションには様々な英語が行き交うので、日本人に馴染みの美しい教科書英語にはなかなか出会えないという現実を、必要に応じて設定に反映させるなどです。
4.受講者の中に葛藤を生む
ロールプレイを行う上での目標は、
- 受講者が自身のコミュニケーションに自信を持つこと
- 同時に、冷静に自分の課題をなるべく自力で見つけること
この二つが重要なのは、研修後の受講者の成長レベルを上げるからです。
グローバルコミュニケーションに苦手意識がある多くの日本人は、ゼロからコミュニケーションを身につけなければならない地点に立っていると、(勝手に・・・)自己評価しています。
そうではなく、日本人やご自身のコミュニケーションの特徴を活かす、応用するのが、本当のコミュニケーションであり、その方がうまくいきます。
その為には、自分のコミュニケーションの強みを正しく認識し、良さに充分気づいていること、自信を持っていることが必要なのです。(目標1)
ですから、ロールプレイでは、各自の良さを強みとして自己認識できるかどうかがポイントになります。
しかし、現場で実際に異文化コミュニケーションに揉まれると、問題が起こったり、うまく対応できないことが多発します。
そこで多くの日本人が陥りがちな葛藤は、自信をなくす、モチベーションが下がる、です。
異文化コミュニケーションに一喜一憂していては、持続可能な発展、成長は遠のくだけです。
必要なことは、うまくいかない経験からの、一喜一憂を伴わない自己分析と、行動目標の再設定です。
これは、頭で分かっていても、その通り簡単に出来る人ばかりではないでしょう。
しかし、それが簡単に出来ている人には共通して”ビジョン意識で物事を見ている”という特徴があるので、その考え方を知ることは大変役に立つでしょう。
異文化コミュニケーションがうまくいかなかった➡冷静な自己分析➡行動目標の再設定、この流れを練習するために、ロールプレイでは、受講者にとって”葛藤を伴う経験”が得られるかどうかがポイントになります。(目標2)
5.受講者の葛藤を正しく行動目標へ繋げる
葛藤を伴うコミュニケーション模擬経験の後・・・
- 冷静な自己分析
- 行動目標の再設定
冷静で正しい自己分析は、起こった事象の”正しい認識”がなければ成り立ちません。
この、異文化コミュニケーションで起こった問題ある事象自体を正しく認識するという作業が、実は難しいようです。
自分が問題だと思ったことを、他者(外国籍従業員など)は問題と思っていないとか、他者(外国籍従業員や講師)には改善点が潜む事象に思えることに、本人が気づいていない、などです。
正しい事象の認識が出来て初めて、自分の改善点が見出せ、正しい行動目標の再設定に繋がります。
次に、行動目標の再設定については、多くの勤勉な日本人は、とにかく英語力を高めることや、異文化情報の理解を深めるという、「お勉強」に時間を使うことが行動目標だと捉えがちです。
それももちろん必要な場合はありますが、本質を踏まえた上でそれらの知識・情報習得をしているかどうかは、成長効率に左右します。
本質を踏まえるというのは、改善点を克服する上で、正しい行動目標のために必要な選択肢を理解しているか?ということです。
たとえば、唐揚げを作ったが、カラッとして美味しい唐揚げになりませんでした。
鶏肉に何か改善が必要だと思い、衣と鶏肉の下味に工夫を加えました。
最初よりうまくはできましたが、美味しいと言える程にはなりませんでした。
本当に必要だった改善は、油の温度と衣でしたが、どちらかと言うと、油の温度が美味しさを大きく左右していました。
揚げ油が美味しさにどのように作用するのか知らなければ、油の温度を変えてみようなど思いもしないでしょう。
異文化コミュニケーションで言えば、スキルや情報だけではなく、マインドがコミュニケーションにどのように作用しているのか、そして、マインドの改善方法は何なのか、ということを理解しているのかどうかが、正しい行動目標の設定には必要だと言うことです。
英語などの語学習得の延長に異文化教育のロールプレイを位置づけるのではありません。
コミュニケーションに外国語は使うでしょうが、語学力と異文化対応力は別物です。
異文化教育のロールプレイを企画する際のご参考になれば幸いです。
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