「多様性の理解と受容」教育完全手引き

「多様性の理解と受容」教育完全手引き

多様性の理解と受容力を高めたい方と、教育・育成に関わる方向けです。

本記事では、「多様性の理解と受容の教育」において知っておくと良いことを網羅しています。

本記事を書いているのは、グローバル人材教育のコンサルタント・講師です。

 

大きな誤解の解消から

まず始めに、最も重要なことを確認したいと思います。

「多様性を受入れる方法」は「多様性を理解すること」ではありません。

多様性の受容力が低めの状態で、多様性を理解した行動を取ろうと意識すること&意識させることは、時に逆効果を生みます。

まずは、この誤解を解消することが大切です。以下記事で解説しています。

 

教育者が踏まえる大前提

次に、教育者(先生・講師)の立場にいる方が踏まえる前提を確認します。

  1. 教育者自身の多様性の理解と受容が必須
  2. 多様性や協調性などを習得する前に主体性という土台が必須

 

1.教育者自身の多様性の理解と受容が必須

多様性の受容が苦手な教育者が、直接的に生徒や従業員に対して指導・育成することは難しいかもしれません。多様性の理解と受容力を高める方法を、まずは教育者で試した方が良いと思います。

教育者が高い受容力をもっていることが、多様性の教育に関わる最初の条件です。

 

2.主体性という土台が必須

文部科学省がESDで、教員・生徒が持続可能な社会実現のために必要と掲げる以下6つの視点に多様性も含まれますが、それは「主体的な学び」から身につけると位置づけられています。

  1. 多様性(いろいろある)
  2. 相互性(関わりあっている)
  3. 有限性(限りがある)
  4. 公平性(一人一人大切に)
  5. 連携性(力合わせて)
  6. 責任制(責任を持って)

 

主体的な学びによって多様性など様々な要素を学ぶ、つまり、主体性は全てのベースであるということです。

主体性・自己承認ビジョン➡多様性」という順番で教育を企画します。

 

誤解と前提を確認していただいたところで、以下、多様性の理解と受容力の身に付け方についてです。

 

はじめに. 多様性の理解と受容の必要性理解

Step1. 自己理解自文化理解

Step2. 自己承認

Step3. 多様性を受け入る準備と行動(コミュニケーションや異文化理解)

 

はじめに. 多様性の理解と受容はなぜ必要なのか?

多様性の受け入れが必要な理由は、多様な人々と良質なコミュニケーションを取り、相互理解とより良い価値創造へ繋げるためだと思います。

  • 良質なコミュニケーション
  • 相互理解
  • より良い価値創造

一般的に、良質なコミュニケーション・相互理解(異文化理解)に必要なものとして、以下が挙がりがちです。

  • 異文化知識・情報・理解
  • コミュニケーション力

しかし、これらが豊富でなくても、良質なコミュニケーションを取る場合があります。これらが豊富で、英語がペラペラでも、良質なコミュニケーションに繋がらない場合もあります。

 

日本人が見落としがちな「自分軸」

良質なコミュニケーションは、自分軸と自分軸の交わりです。良質な異文化コミュニケーションに必須とも言える自分軸は、日本人が見落としがちかもしれません。

比較的、日本人が得意ではない分野ですが、自分軸のはかなさによって、世界中では日本人が関わる数多くの勿体ないコミュニケーションが発生していると思います。

しかし、「自分軸のはかなさ」自体に関心がなければ、人は問題意識をもちません。「良く分からないけど、○○人とはコミュニケーション取りにくいなぁ・・・」程度で終わってしまいます。

そうではなく、はかない自分軸のせいで、コミュニケーションの輪の中で「場外」に位置づけられてしまった、ということが起こります。(ただし、日本人にはその他に素晴らしい点が多くあります)

多様性を受入れた行動を持続的に自然と取れるためには、受容力を高める以外にはありません。

 

多様性の受容力を高める方法

受容力を高める方法は、ひたすら異文化理解・コミュニケーションを繰り返すことではありません。本人のことを大切に思い、一過性ではなく持続成長する受容力を得るためには、以下のStepをお薦めします。

 

Step1. 自己理解自文化理解

Step2. 自己承認

Step3. 多様性を受け入る準備と行動(コミュニケーションや異文化理解)

 

Step.1 自己理解・自文化理解

  • 多様性(様々な価値感や文化など)を受入れるには、正しい自己理解と自己承認が必要
  • 正しい自己理解のために、主体=本当の自分を知ることと、自文化理解が必要であり、作業は至ってシンプル

 

以下の2記事でまとめています。

 

Step.2 自己承認

自己理解・自文化理解をしても、自己承認が不足していれば、受容力は一向に高まりません。

たとえば、改めて理解した日本の文化を、自分なりに捉え、価値を見出し、誇りをもって語ることができることが大切です。これは何も、日本の歴史を学び直し、正しく説明できるかどうか?ということでは全くありません。自分なりに日本を捉え、自分なりに日本を堂々と語れるか?ということです。

この自己承認のステップを重要視せずスキップしてしまうことは、ガソリン・充電が空っぽの車に乗り込み出掛けようとするようなものです。その状態で車が走ることは、ありません。

 

自己承認のための作業に充分の時間を取ることは「自己理解を他者受容力へ繋げる」上では欠かせません。

 

Step.3 多様性を受け入れる準備と行動

ここではまず、教育者が確認することは「多様性の理解・受容」の本質です。

多様性を受け入れる行動の本質を理解

多様性の理解と受容とは、様々な価値感を受入れる行動を取ることだという考えの基に教育していれば、Step.3「多様性を受け入る行動を取る」という最後のステップに終始しているかもしれません。

たとえば、以下のような行動を意識しましょうなどということです。

  • 様々な価値感を受入れる
  • 相手の価値感に興味を持つ
  • 自分の価値感を説明する

 

このような、取るべき行動・考え方は、本人が決めれば良いことであり、「多様性の理解と受容行動」は十人十色です。

「自分と自文化を自分なりに捉え、認め(承認)、自分なりの思いを抱く状態になるという土台作り」こそが、多様性の理解と受容のためにすべきことです。土台ができた人を見ていれば、様々な受容行動を知ることができています。受容行動自体は、教育者が教えたり、促したりするようなものでは本来ありません。

 

「相手の価値感を受入れるように」「様々な価値感に興味をもつように」などという言葉で指導をしている場合は、教育者自身の自己承認と多様性の受容が確立前と察することができます。

自己理解・自己承認し、実際に多様性をスムーズに受入れ生きている人は、受容力を引き出すことにプラスに働かない上記のような言葉に違和感を感じるからです。

雨雲の上に快晴の空があることを知っているのは、雨雲を抜けた飛行機だけです。教育者が雨雲を抜けることが大切です。

 

 

ここからは、多様性の理解と受容のために、教育者と教育を受ける側の両者が確認することです。自文化理解・自己承認の後の、実際に多様性を受入れる段階では、まずは「異文化の範囲」から確認しましょう。

 

異文化の範囲の確認

「異文化=外国・外国人」という思い込みを手放し、「自分以外の全てが異文化・多様」と捉えることが大切です。

ここで理解したいことは以下3点です。

  1. 外国人と出会った時に多様性を受入れるのではなく、日頃から身近な人を受入れているかが大切
  2. 普段から自分以外の存在を受容する心の習慣が、結果として外国文化のスムーズな受容に繋がるという仕組みが、持続可能な受容力
  3. 多様性に富んだ環境で活躍している人は自然と相手を受容している

異文化の範囲については、以下記事にて解説しています。

 

日本人の異文化受容力の低さを理解

世界的に見て、日本人の異文化理解・受容力の低さを確認しましょう。

ここで理解したいことは3点以下です。

  1. 日本人の異文化理解・受容力は低いが、それにも背景(自己理解・承認不足と歴史)がある
  2. 自文化を語れないことが間違っているのではないが、グローバル環境で魅力を感じられることはない
  3. 多くの良さをもつ日本人が受容力を得たら、世界を和に導く潜在力がある

 

受容力が生む差を理解

受容力によって異なる多様性の受入れ方を確認しましょう。

ここで確認したいことは以下3点です。

  1. 自分や身近な家族の現時点での受容力は高い方か・低い方かを自覚
  2. 受容力があるorない、どちらに人としての魅力を感じるか・自分はどうありたいか
  3. 多様性の受入れは、外国人相手のことではなく、身近なところから始まっている

 

2段階ある受容を理解

異文化受容は理想通りにいかない場合もあります。

ここで理解したいことは以下3点です。

  1. 人によって受容力は様々である
  2. 人に対して多様性を受入れるべきだという押しつけはできないし、逆効果である
  3. 人が多様性をスムーズに受入れるためには、本人が周囲や自分自身からありのまま受入れられることが必要である(自己承認・他者承認力)

 

異文化行動の背景を理解

異文化行動や多様な価値観には、必ず文化・歴史的背景があります。

多くの国や地域の文化を理解する必要があるということではなく、理解したいことは以下3点です。

  1. 全ての「違い」には必ず文化・歴史的背景が隠れている
  2. そのような背景は、自分・自文化に隠れており、皆が同じである(自己理解・自文化理解)
  3. 自分が自分の価値感や自文化に対して愛着や誇りを持つように、皆も同じである(自己承認)

 

自文化を理解

多様性の教育の要がこのパートです。

以下7つのポイントが達成されるよう、時間を掛けて内容を企画してください。

  1. 外国人が興味・疑問をもつ日本・日本人の数々の特徴と海外との違いを知る
  2. 日本人の特徴に隠れた歴史的背景を自分なりに考えてみたくなる
  3. 日本人の特徴に気づきつつ、同時に日本を誇りに感じる
  4. 日本人に課題があるとしたら、本人がそれを感じ、更に乗り越えた方が良いと感じる
  5. 自分がいつか外国人の友達に説明するなら、何を伝えようかと考える機会と習慣作り
  6. 自文化を外国人などの他者へ伝え、理解してもらうことは楽しいと感じる
  7. 異文化のことも知ってみたいと感じる

 

このパートのゴールは、自文化を充分理解し説明できるようにすることではありません。ゴールは、以下に対してワクワク⤴⤴を生むことです。

  • 自文化を知ること
  • 自分のルーツに誇りをもつこと
  • 課題を前向きに捉えること
  • 自文化を伝えること
  • 相手のことを知りたいと思うこと

 

自文化を誇りに感じることが難しい人がいた場合、誇りをもつよう促すことはしません。可能な限り、ありのままの思いを語ってもらい、多様な考えを共有しましょう。何らかの問題意識(社会に対する問題意識など)が隠れている場合は、ビジョン共有へ繋げましょう。

 

自文化への様々な思いを理解

世の中には、自文化に愛着や誇りを持てない人も多くいることも理解しましょう。

ここで理解したいことは以下3点です。

  1. 人に対して自文化を誇りに思うべきだという押しつけはできない
  2. 多様性を理解するために世の中の様々な苦しみを調べる時は気持ちに負担をかけない範囲で
  3. 世の中の苦しみを理解し戸惑ったら、その気持ちを自分のビジョンへ反映させる

 

自分・自文化を説明

以上を踏まえ、自分のこと、自分の地域や日本のことなど、テーマは何でも良いので、自分の事を語る場を多く設けましょう。

 

発表

発表は、プレゼンのうまさ、資料の美しさだけに評価を見出すようなフィードバックではなく、「思い」をよく観察しましょう。

  • 自分なりの視点か
  • 自分の思いがこもっているか(愛着・誇り・問題意識などどのような思いでも良い)
  • 素晴らしいプレゼン資料は、真剣度の表れとして評価
  • プレゼンのうまさは、それによってどれ程聞き手に思いが伝わったのかという視点で評価

 

また、発表では同時に、聞き手の中に多くの評価ポイントを見つけましょう。以下記事にて解説しています。

 

 

 

ビジョンの共有と応援の場へ繋げる

多様性・異文化を理解し、様々な思いを抱いた後は、思いを自分のビジョンへ反映し、仲間とのビジョン共有の場を作りましょう。

そして、以下のサイクルを習慣にします。

  1. 経験や思いを自己理解・自己承認へ繋げる
  2. ビジョンへの反映・ビジョンのバージョンアップ
  3. 最新ビジョンを周囲に共有
  4. 仲間のビジョンを知り、共感・応援
  5. 自分たちのようなビジョンがある人の集合体が時代を創っていくのだと確認

 

 

異文化理解教育を企画する

異文化理解教育を行う際のポイントを以下記事にて解説しています。

 

お薦め教育

全ての学びの基礎となる主体性を引き出しながら、多様性の教育に取り組むのであれば、弊所の教育をお勧めします。

このような教育手引きは無料で公開していますが、手引き通りの教育を実践するのは難しいこともあると思います。

実際に、教育(ESDカリキュラム)を受けられた学校の教員の方から次のように言われました。

「教員が主体性を引き出す正しい関わり方を理解することが大切だったのですね」

「多様性は理解して受入れようとするものではなかったのですね」

「この教育(ESDカリキュラム)を一番理解した方が良いのは教員ですね。」

 

生徒さん(や従業員)が主体的な学びの姿勢と多様性の受容力を保つには、組織風土を見直すしかないということ行き着く組織もあります。組織風土の見直しは、関わる人への押しつけでは叶いません。教育と主旨の丁寧な説明と、前向きな関わりが必要です。

ESDのカリキュラム化教育は、こちらから

 

 

認定講師になる

「主体性・ビジョン・多様性・協調性」という人財基盤を築くための教育を、ご自身が周囲の人に対して実施することができれば、教育・指導の質も、組織の生産性も高まるでしょう。

人財基盤教育を社会へ広げていくMBDGsプロジェクトの認定講師になることについて、検討してみてください。

→認定講師とは

→MBDGsとは

 

1on1セッション

「手引きを参考にしてもうまく教育できない・関わり方が分からない」という方のための1on1セッションを始めました。

教育を踏まえた関わり方を学ぶための1on1セッションはこちらから

 

主体性・自己承認」「ビジョン」「多様性」の次は、「協調性」へ進んでください。